ビジネスにおける
口語表現の重要性
当記事はビジネス英語スピーキング教材「パタプラ口語表現」を利用することで、なぜスピーキング力を身につけることができるのか、具体的な口語表現の事例を示しながら解説します。
なぜ英語ネイティブは口語表現を使うのか
touch base(連絡する)といった聞き取れるけど、とっさに意味がわからない表現はありませんか?
もしかすると、気づかないうちに間違って会話を理解しているかもしれません。
グローバルビジネスにおいて、英語の自然なコミュニケーションが不可欠です。ネイティブがよく使う独自の口語表現を理解して使うことで、より信頼されるビジネスパートナーになれます。
本記事では、口語表現がどういったものなのか、ビジネスシーンで役立つ口語表現を紹介します。
英語ネイティブが使う口語表現とは?
イディオムや句動詞と呼ばれるものは、ネイティブがよく使う口語表現に当たります。例えば句動詞はややカジュアルな口調になるため、オフィスや社内会議でよく使われます。
“実際の大人の英語ネイティブの会話を分析した研究によると、使用された単語の80%以上が繰り返し使われる定型フレーズの一部であることが示されています。”
出典:Altenberg(1988)の研究より(英語イディオムの特徴と教授文法: 認知意味論からの考察から引用)
口語表現の種類・例
口語表現の例として、イディオム・句動詞・決まり文句的なフレーズがあります。
イディオム
複数の語から成る表現がイディオムです。call it a day 「(その日の仕事を)切りあげる)」、touch base「連絡する、意思確認等の話し合いをしておく」などがその例で、これらはビジネスのシーンでよく使われるイディオムです。
touch baseは野球を由来としています。イディオムの中には文化・慣習に基づくものや、いわゆる比喩のような表現もあります。特に意味を類推することが難しいものがあるので、それらには注意が必要です。これらイディオムの学習は難しい側面がありますが、英語を第二言語とする話者にとって、イディオムを適切に使用できる能力が必要と主張されることもあります。
句動詞
動詞が前置詞や副詞と結びついて、全体として1つの動詞と同じように使われるものを句動詞と言います。動詞+前置詞の形や(例:pitch in「協力する」)、動詞+副詞の形(例:spell out 「はっきりと分かるように説明する」)などがあります。
単語はカンタンなのに、意味を勘違いしやすいので知らないと話についていけず、いつも堅い口調で話すことになります。
例えばビジネスシーンの会話において、ネイティブスピーカーは1単語(withdraw「(契約等から)手を引く」)よりも平易な動詞による句動詞(back out)が使われることが多いです。
決まり文句的なフレーズ
「to make a long story short(手短に言えば)」「off the top of one's head(単なる思いつきだが)」といった決まり文句的なフレーズもあります。
これらは問題解決、意思決定、状況説明や議論といった様々なシチュエーションで幅広く使われる表現パターンです。
なぜ英語ネイティブは口語表現を使いたがるのか?
ネイティブが仕事の場でイディオムを使いたがる理由は、イディオムを使うことで鮮やかなイメージを呼び起こすことができるからです。
例1:put 〜 on the back burner
put 〜 on the back burner 「優先順位を下げる」を例にすると、back burnerはガスコンロなどの後列にあるバーナーのことです。なぜ後列のバーナーの位置に置かれるのか、それは先に準備しなければならない料理が出てきたので後回しにされてしまった、などの理由が考えられます。
この表現をビジネスシーンで使えば、すでに進行中だったものが、別の緊急案件や優先事項が出たために後に回されてしまったということです。同じ内容を伝えるのに、postponeやgive〜 a low priority等の表現がありますが、この表現だと、後列のバーナーに寂しく置かれてしまうイメージを感じ取れると思います。だからこそ、このようなイディオムが好まれるのです。
例2:get on one's nerve
他の例として、怒るという表現において、get on one's nerveは怒りが徐々にたまっていく状況を表し、blow one’s topは怒りが爆発して行動に現れる段階を示します。この表現は、容器内の熱せられた液体が溢れだすように、抑えきれない怒りが外に現れるという比喩から来ています。これらのイディオムを使うことで、怒りという感情のステージについて、話者と聞き手が自然にイメージを共有することができます。
口語表現を学習する必要はあるのか?
職場の会話では、参加者が専門的、または組織的な役割を果たす場合(例:顧客との会議、上司とのミーティング)にはフォーマルな英語が、バックオフィスでのオフレコの会話(例:同僚との会話)においてはカジュアルな英語が期待されます。
口語表現は、効果的なコミュニケーションを生み出し、ビジネスの世界で成功するために必要な要素です。取引の交渉、プレゼンテーション、同僚との交流などのシチュエーションにおいても、口語表現は重要な役割を担います。
また、口語表現を正しく使えることは話し手の言語能力の高さだけでなく、文化を認識していることを相手に示すことができます。ただし、口語表現の使用場面には注意する必要があります。例えばスポーツに関連したイディオムは、ビジネス上の深刻な問題を議論するような、フォーマルな場面では適さないこともあります。
メリット1:より効率的に意味を伝える
イディオムを使うことでより効率的に意味を伝えることができます。例えばcut to the chase「本題に入る、要点を言う」はカジュアルな表現ですが、このイディオムを使うことで、「自己紹介を飛ばして本題に入りましょう」と言うよりも、簡潔に会話を進めたいという意志を効果的に伝えることができます。
メリット2:信頼関係を構築し、共通の土台を作る
文化や慣習に基づくイディオムを使うことで、信頼関係を構築するとともに、相手との共通の土台を作ることができます。例えばhitting it out of the park「非常に大きな成功を収める」のようなスポーツ関連の慣用句を使うことで、そのスポーツのファンである人とのつながりを築くことができます。
メリット3:言語能力の高さと、文化を認識していることを示す
イディオムは文化や慣習に基づくものが多いことから、それらを正しく使うことで、話し手の言語能力の高さだけでなく、文化を認識していることを相手に示すことができます。これは、文化的認識や感受性が高く評価される国際的なビジネスシーンでは特に重要な意味を持ちます。
ビジネスシーン別の口語表現
会議などビジネスシーンで役立つ口語表現を紹介します。
会議や話し合い全般で使える口語表現
- in a nutshell
- 意味:つまり、要するに、簡単に言えば
- 参考:nutshell = ナッツの殻、ごく小さなものや容器
- In a nutshell, the operating costs are going to have to come way down.
つまり、営業経費は大きく削減しなければなりません。 - in my book
- 意味:私の意見では、私の信条から言えば
- 参考: 自分の信条や意見をリストにした本を持っていると仮定したイメージ。
- Was that an ethical thing to do? Well, not in my book.
あれは倫理的な行ないだっただろうか?ま、僕に言わせれば違うね。 - That said...
- 意味:とは言っても
- The new guy's work has been pretty good. That said, I still think there's room for improvement.
あの新人の仕事振りはなかなか結構だ。とは言っても、改善の余地はあると、僕はいまだに考えている。
リスクを考慮する時に使える口語表現
- tried-and-true
- 意味:(有効性等を)実証済みの、絶対確実な
- There's no risk involved. This marketing method is tried-and-true.
伴うリスクはありません。このマーケティング手法は実証済みです。 - hedge one’s bets
- 意味:(リスク分散のために)複数のものに賭ける、複数の手を打つ
- I'm not confident they'll accept our offer, so I'm hedging our bets by staying in touch with two other companies.
- 彼らが我が社のオファーを受け入れるかどうか、自信はありません。だから他の2社と接触を保つことで、リスク分散をしています。
- go for it
- 意味:(余計な事を考えずに)ともかくやってみる
- Yes, it's a risky approach for sure. Now will we play it safe, or go for it?
ええ、確かにそれはリスクの高い方法です。で、我々は安全策をとりますか?それともこの方法でともかくやってみますか?
問題解決に関連して使える口語表現
- nip something in the bud
- 意味:(問題等を)未然に防ぐ、大事に至らないうちに食い止める ; つぼみのうちに摘み取る
- 参考:nip = 噛みつく、嚙み切る、成長や発展などを抑える。bud = つぼみ
- We need to nip this problem in the bud before the press gets wind of it.
マスコミが嗅ぎつける前に、この問題を食い止める必要があります。 - pinpoint
- 意味:正確に指摘する、正確に把握する ; 正確に狙う
- Sorry boss, but we haven't been able to pinpoint the cause of the problem yet.
ボス、すいませんが、例の問題の原因はまだ正確には把握できていないんです。 - put out fires
- 意味:トラブルを解決する
- As a manager, I'm often asked to put out fires between feuding employees.
マネージャーとして、しばしば私は反目し合う従業員達の間の火消し役を頼まれる。
企業間競争に関連して使える口語表現
- play to one's strengths
- 意味:自分の強みを生かす
- Needless to say, we want to play to our strengths in this new market segment.
言うまでもなく、我々はこの新しい市場セグメントにおいて、当社の強みをいかさなくてはなりません。 - raise the bar
- 意味:ハードルを上げる
- Their new app is getting rave reviews. Looks like they've really raised the bar for their competitors.
彼らの新しいアプリはレビューで絶賛されている。彼らの競合相手達にとっては、ハードルが上がったようだな。 - household name
- 意味:誰でも知っている名前
- 参考: householed = 「家庭、世帯」。どこの家庭でも認知されているイメージ。
- We're a household name in the United States, but they've never even heard of us in Japan.
我が社は米国では誰もが知る会社だが、日本では誰も我が社のことを聞いたことさえない。
口語表現を使いこなせるようになる方法
会議などビジネスシーンで役立つ口語表現を紹介します。
口語表現を見たり、聞いたり、調べて意味を知るだけでは実際の場で使いこなすことはできません。知識としての口語表現を、とっさの場面で使える技能に変えていく必要があります。口語表現を会話で使っていくためには、実際に口から英語を出す「リピーティング」の練習を繰り返すことが必要です。
リピーティング練習では、教材音声を聞き終わったあとに音声を思い出しながら発話します。この過程で、脳のワーキングメモリにおいて、音声情報の処理、語彙と文構造の理解といった処理を同時に行う必要があり、脳にかかる負荷も高く集中力も必要になります。そしてこれが、英語の「音声・語彙・文法」といった知識の自動化を強く促進します。
実際のスピーキングのプロセスは以下のようになっています。
- 1) 概念化:話したい概念が思い浮かぶ。漠然とした状態で、まだ言葉にはなっていない
- 2) 形式化:概念を、日本語や英語で、どのように言うか語彙・文法・音声をまとめる
- 3) 調音化:発話する
リピーティングにおいては、聞き終わった英語を自分の口で復元する過程で、音声から得た概念(意味内容)を「語彙や構造の理解を手掛かり」に、もう一度自分の力で「形式化」して、英文に再構築し直す必要があります。
このプロセスは実際のスピーキングの「形式化」のプロセスと同じであり、実際の会話で自分が話すのと同じ作業を脳がシュミレーションすることになります。そのために、リピーティング訓練を続けることで、実際の会話の「形式化」のステップもスムーズに行えるようになっていく、つまり「話す力」がつくのです。
まとめ
口語表現はビジネスシーンにおいても、ネイティブスピーカーに幅広く使用される重要な表現です。しかし、それらの表現を知らないと、意味がわからず会話についていけなくなる、自身は堅い表現をよく使ってしまう、といったことになります。
口語表現を使いこなすには、「知っている」だけではだめで、「使える」表現にすることが重要です。その方法として、リピーティングが重要です。